フットケア

フットケアと足病変

フットケアの重要性

透析患者さんの高齢化と糖尿病による腎不全患者の増加、動脈硬化の進行に伴い、足のトラブルが増えています。動脈硬化の進行によって、足への血流不良が起こり冷えやしびれ、痛みが現れます。 小さな傷ができた場合でも、悪化して傷が大きくなり潰瘍形成、壊死、最終的には下肢切断に至る場合も少なくなく、歩行困難や車いす生活、寝たきりを招いてしまう恐れもあります。 フットケアを行うことで生活レベルの低下の予防にもつながります。患者さんの中には、他人に足を見られることに抵抗を示す方もいらっしゃいますが、当院では日常的に患者さんと接することの多い看護師が普段から信頼関係を築き、定期的にフットチェックなどを行うことによって、足の異常を早期発見しできるだけ早く対処できるように心がけていきます。

当院で行う定期的なフットチェックとしては、足の爪や皮膚の観察、血流評価を中心に行っています。また、爪処置や足浴などを含めたフットケアを中心に行い、セルフケア指導にも力を入れていきます。

フットチェック

下記のような足・爪病変の有無に注意して観察します。

【画像】フットケア

特に足の爪病変についておさえておきたい病気

水虫(白癬)

真菌(カビ)の一種である白癬菌が皮膚に感染して起こる病気で、病変の部位により、足白癬、爪白癬、手白癬などに分類されます。

特に足裏の白くカサカサしたものは、足白癬の可能性があります。そのカサカサした皮膚の粉から菌がばらまかれて感染します。爪の中に感染したものを爪白癬といい、最初は爪の色が白っぽくなるだけですが進行すると爪が盛り上がった状態になり(肥厚)、ボロボロと崩れます。また、分厚くなった爪は、外からの圧迫を受け皮膚にダメージをあたえる危険があります。

糖尿病患者さんや下肢血流の悪い患者さんにおいては、白癬による二次感染が原因となり下肢潰瘍へと進展するケースもあります。そのため、正しく外用剤が塗布できているか、またその必要性を理解していただくよう指導と経過観察を行っています。

【画像】水虫

巻き爪(陥入爪:かんにゅうそう)

爪のトラブルの中で多いのが巻き爪です。爪が横方向に巻いている状態をいい、靴などの圧迫や深爪、遺伝、寝たきりなどで歩行をしなくなった状況が要因といわれています。 巻き爪の問題点は、爪が皮膚にくい込み痛みを伴ったり化膿すること、感染して炎症を起こしてしまうことです。また、爪が切りづらいため、爪切りの際に傷をつくり出血させてしまったり、爪が切りにくく、長く伸ばしたままになっているケースも少なくありません。高齢者や視力障害のある患者さんに対しては、フットケアスタッフがケアをすることもあります。

【画像】巻き爪
巻き爪(陥入爪:かんにゅうそう)

胼胝(たこ)・鶏眼(うおのめ)

胼胝(たこ)

長期間にわたり摩擦や衝撃などの外的刺激を受け続けることによって起こり、スポーツや職業、履物、筆記用具、正座などが誘因になり、足裏、足の指の付け根、かかと、手の指などに生じます。症状は皮膚の表面にある角質が部分的に厚く硬くなりますが、鶏眼と違い表面的なもので症状がないことがほとんどです。カッターやはさみで胼胝部分を処置したりすると、潰瘍形成につながりとても危険です。角質を柔らかくする軟膏を塗布して、フットケアスタッフが透析中に削るようにしています。

【画像】たこ・うおのめ
胼胝(たこ)

鶏眼(うおのめ)

長期にわたり摩擦や衝撃などの外的刺激を受けることによって生じます。 誘因は、足に合わない靴の着用や、足の変形(外反母趾)、姿勢が悪く体重が偏っている場合などがあり、足裏、趾間(ゆびの間)、趾背(足のゆびの表面)に生じます。 皮膚の角質が厚く硬くなるため、外見は胼胝と同じように見えますが、鶏眼は皮膚の深部に向かってくさび状に厚みを増していくため、痛みを伴います。 深くまで角質が奥の方に入り込んでる場合もあり、誤った処置をすると症状が悪化するため、状態によっては皮膚科への受診をしていただきます。

【画像】鶏眼(うおのめ)
鶏眼(うおのめ)

低温やけど

体温よりやや高い温度(42~50℃)のものが長時間触れていた場合に、赤みや水膨れなどの症状を起こす火傷です。原因となるものは、湯たんぽ、ホットカーペット、使い捨てカイロ、こたつ、電気アンカなどです。熱傷や炎での火傷は、表面のダメージが激しく、内部にいくほど軽くなっています。しかし低温やけどは、ほとんど痛みがなく赤くなっている程度でも、内部の細胞組織が壊死し潰瘍状態となります。

特に糖尿病患者さんは神経障害があり感覚が鈍くなっている場合が多いため注意が必要です。

血流評価と末梢動脈疾患

  • ABI測定(足関節上腕血圧比測定)
    腕と足首の血圧を測り、腕に比べて足首の血圧が低い場合は末梢動脈疾患(PAD)が疑われます。PADとは、足の血管に動脈硬化が起こって血管が狭窄や閉塞している状態です。以前は閉塞性動脈硬化症(ASO)と呼ばれていましたが、現在はより広い疾患概念で世界的にもPADと呼ばれるようになってきています。
  • SPP(皮膚組織潅流圧)測定
    透析を受けている患者さんは動脈硬化が強く足首などの血圧が正確に測定できない(ABI測定での評価が困難な)ことがあります。SPP測定は皮膚表面の毛細血管の流れを確認する検査であり、動脈硬化(石灰化)の影響を受けずにPADの重症度を評価できます。

実際には、足の甲や裏の皮膚にセンサーをあて、血圧計カフを巻いて固定します。カフを加圧し、皮膚表面の血液が流れ始める圧を測定します。

正常値は80mmHg前後で、50mmHg以下の場合、PADが疑われます。さらに40mmHg以下では、傷が完治するのが困難といわれています。

当院ではこのSPP測定をフットチェックの際に定期的に行い、患者さんの足病変の早期発見、早期治療へ介入し取り組んでいきます。

【画像】SPP測定

末梢動脈疾患(PAD)について

主に手足、特に下肢の血管が動脈硬化によって狭くなったり閉塞したりすることにより血流の悪化による血行障害が起こり、手先や足先に十分な血液が供給できなくなる病気です。 動脈硬化性変化が原因で、喫煙・糖尿病・高血圧・高脂血症・透析などがリスクになります。

症状としては、足が痛い、足が冷える、足がしびれる、間欠性跛行(歩くと足が痛くなるので休みながらでないと歩けない)、足の色が悪い、足の傷がなかなか治らない、足に潰瘍ができるなどあります。症状によって4段階の病期(Fontaine分類)に分かれ、病期ごとに治療が変わります。

PADの多くは下肢で発症し、治療せずに放置していると歩行が困難になり、更に重症になると下肢の壊死のために下肢の切断を余儀なくされることもあるため、早期の診断と治療が必要です。 また、PADが存在する場合には、他の部位の動脈でも動脈硬化が進行していることが多く、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞など)や脳梗塞を発症するリスクが高いため全身の動脈硬化の検査が必要で、早期の診断は全身の動脈硬化性疾患の予後改善に直結します。

治療も病期により異なりますが、軽症の場合は動脈を詰まりにくくする抗血小板剤・抗凝固剤や血管拡張剤を用いた薬物療法、速歩や軽いジョギングなどの理学療法をまずは行っていきます。 重度の場合は、狭くなったり詰まったりした動脈の先に血液が流れるように、カテーテルという細い管を血管内に挿入し、詰まっているところでバルーン(風船)を拡げたり、ステントという金属の筒を留置する血管内治療や、人工血管や患者さん自身の血管を用いて血管をつなぎあわせるバイパス手術が挙げられます。

当院では、重度のPADが疑われる場合は早期に精査・治療ができる連携病院様へのご紹介をさせていただいております。

PADの重症度分類(Fontaine分類)と治療法の選択

【画像】PADの重症度分類(Fontaine分類)と治療法の選択
【画像】足の潰瘍
足の潰瘍
【画像】足の血色不良
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