サルコペニア・フレイル

サルコペニア・フレイルと運動療法

サルコペニアとは、ギリシャ語で筋肉を意味する「サルコ(sarx/sarco)」と喪失を意味する「ペニア(penia)」を合わせた造語で、加齢による筋肉量の減少および筋力の低下のことを指します。 「サルコペニア」は国際疾病分類に登録されており(2016年10月)疾患扱いになります。サルコペニアになると、転倒しやすくなる、日常生活の動作に影響が生じる、近い将来に介護が必要になるなどの危険性が高くなります。

サルコペニアの主な要因は、加齢による原発性サルコペニアです。メカニズムとしては、加齢に伴う神経の変性やホルモンの変化、ミトコンドリア(筋肉の活動や発達、維持においても不可欠な細胞小器官)の機能不全などが考えられていますが、十分にはわかっていません。 また、活動減少・栄養不足・疾患(臓器不全、炎症性疾患、悪性腫瘍など)が原因のものを二次性サルコペニアといい、透析患者さんのサルコペニアは加齢による原発性と腎不全による二次性が複合しています。最近ではサルコペニア肥満も注意が必要で、メタボでも筋肉量が減少している場合もあります。

フレイルは、身体的な問題に加えて、認知機能の衰えなどの精神・心理的問題、独居や経済的困窮などの社会的問題なども含んでおり、サルコペニアよりも広い範囲を含む概念と言えます。 そのため、サルコペニアはフレイルの原因になり、フレイルの人はサルコペニアを有する人も少なくありません。

サルコペニア・フレイルの予防と改善には、筋肉の増量と強化が重要であり日々の運動と食事内容の改善が必要です。筋肉を減らさないための適度な運動と栄養バランスの取れた食生活が基本となります。活動、休養、食事に気を配った規則正しい生活習慣を送るようにしましょう。

運動は、筋力トレーニングだけでなくストレッチ運動やバランス運動、有酸素運動を取り入れることが推奨されています。 例えば、筋力トレーニングでは筋肉にややきついと感じる程度の負荷のかかる運動や、体幹や脚の大きな筋肉(太ももやお尻、ふくらはぎ)を意識するといいでしょう。有酸素運動はウォーキングが手軽に始めやすくておすすめです。

食事面においては、肉や魚、大豆、卵などの筋肉の生成に効果のあるタンパク質が豊富な食材がおすすめです。そのほか、マグロの赤身・レバー・鶏ささみ・キウイ・バナナなどのタンパク質の働きを助けるビタミンB6が豊富な食材や、米・パン・麺類といった筋肉を動かすエネルギー源となる炭水化物などをバランスよく摂取しましょう。 また、過度な飲酒は筋肉がつくられるのを妨げる物質(ミオスタチン)を増加させると言われていますので、飲酒は適度にすることが必要です。

透析患者さんにおいては、高齢化・活動量の低下・食事制限による低栄養などサルコペニア・フレイルを引き起こしやすい要因が多いため、多面的な介入が重要となります。

当クリニックでは透析治療に対する専門的な治療を中心に、薬物療法、栄養管理、精神心理面への対応、身体機能低下への対応を行いつつ、透析中の運動療法なども取り入れてスタッフ一同適切な介入を心がけていきたいと考えております。

【画像】フレイルサイクル

透析中の運動療法

透析中の運動に適切なタイミングは、透析開始30分後から透析前半の時間帯と言われています。 透析中に運動療法を行うことで、下肢筋肉量の増加や関節可動域の拡大により、持久力やバランス能力、歩行能力といった身体機能が総合的に改善され、転倒防止効果などが期待されます。 また、血液の循環がよくなり、冷えや足のつりの予防・改善が期待されます。 透析除去効率が高まるなどの効果が期待されます。

透析中運動療法の除外基準および禁忌

  1. 透析導入3か月以内、炎症や発熱など不安定な状態、8週間以内の心筋梗塞または未診断の胸痛の患者さん
  2. アメリカ心臓協会とアメリカスポーツ医学会の共同声明によるクラスDの不安定な状態の患者さん(不安定な虚血症、代償されていない心不全、重度心疾患、全身や肺の塞栓症)
  3. 症候性の高血圧もしくは低血圧、透析間の過剰な体重増加のある患者さん
  4. 重度糖尿病、インスリン製剤使用中血糖が100未満の患者さん
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