バスキュラーアクセス

バスキュラーアクセス不全と血管内治療

バスキュラーアクセスとは

血液透析を十分に行うには1分間あたり約200mlとかなり多くの血流量が必要であり、一般的な採血に用いるような血管では、まかなうことができません。 そのため、透析を十分に安定して行うために、体から血液を抜き出し戻すための出入り口が必要となりますが、それを“バスキュラーアクセス”と呼びます。 バスキュラーアクセスには複数の種類がありますが、日本では自己血管内シャント(略して“シャント”と呼ばれることが多い)が90%程度と大部分を占め、その他の人工血管を用いたグラフト内シャント、動脈表在化、長期留置カテーテルは10%程度です。

【画像】シャントの仕組み

バスキュラーアクセス不全とは

内シャント・人工血管吻合部が狭窄したり閉塞したりして、透析時に安定して使用できない状態になることをバスキュラーアクセス不全と呼びます。

バスキュラーアクセス不全になると、血液透析を開始する際の穿刺回数が増えたり、透析療法自体の治療効率(尿毒症物質の除去効率など)が悪くなったりなど、治療の質および患者さんの生活の質を大きく左右しますので、血液透析を受ける患者さんにとってはとても重要な問題となります。一昔前までは、バスキュラーアクセス不全に対する主な治療法は外科的再建術でしたが、近年、バスキュラーアクセス血管内治療(Vascular Access Intervention Therapy:VAIVT)の有効性が確認されて以降、重要な治療選択肢となり、広く認知されるようになりました。

シャント狭窄の症状としては、透析中に痛みを感じることがある・シャントが拍動している・シャントの張りがなくなる・聴診器でシャント音を確認するとシャント音が小さくなる、狭いところを血液が流れるため高調音になる、音が途切れて聞こえるなどの異変が認めることが多いです。 シャントの音がなくなり、シャントが硬くなっている、強い痛みを感じる際にはシャントの閉塞を疑います。

バスキュラーアクセス血管内治療:VAIVT

VAIVTとは、先端に風船(バルーン)のついたカテーテルをバスキュラーアクセスの狭窄部や閉塞部にまで進め、そこで血管内からバルーンを膨らませることによって狭窄部を拡張する治療です。また、中でもバスキュラーアクセス内に血栓が出現して閉塞している血管については、事前に血栓を吸引しVAIVTを行うこともあります。

バスキュラーアクセスの血管に“シース”という通常の血液透析で使用するものと同程度の太さの針を刺します。 シースから狭くなっている部分にカテーテルをすすめ、風船によって異常がある部位を血管の内側から広げます。

【画像】バスキュラーアクセスの断面図

当院ではVAIVT専用の透視室を設け、シャントの血管走行を評価するために造影剤を適宜使用し、シャントの狭窄部をバルーンで拡張する透視下VAIVTを行っております。造影剤アレルギーをお持ちで造影剤を使用できない場合は超音波を補助で使用したVAIVTも行っています。

また、バスキュラーアクセスを機能的・形態的に評価できるシャントエコー検査を積極的に行い、VAIVTの適応やフォローアップなど、きめ細かいバスキュラーアクセス管理を行っています。

VAIVTにおけるよくある質問

VAIVTで入院は必要ですか?

当クリニックでは基本的に日帰りのVAIVTを行っています。 万が一入院が必要となった場合は、医療連携提携病院様へご相談・ご紹介いたします。 入院が必要となる場合としては、予期せぬシャントトラブル以外の合併症を発症した場合・VAIVTによる血管損傷(出血・血腫)で安静経過観察や追加の治療が必要となる場合・VAIVT後に継続した薬物療法が必要となる場合(主に血栓性閉塞例)などがございます。

合併症にはどのようなものがありますか?

上記にも記載しましたが、血管拡張時・ワイヤー通過時などに生じやすい血管損傷(出血、血腫など)、再狭窄、感染症、アレルギー(造影剤・局所麻酔・抗生剤)、治療に伴う過度な緊張やストレスで心臓疾患(不整脈や心筋梗塞など)や脳疾患(脳出血など)の誘発、血圧上昇、ガイドワイヤーやバルーンが通過困難(高度の石灰化や蛇行が激し過ぎる場合)による手術中止、などがあげられます。

血管損傷については、ごく軽度の皮下出血(あざ)と同程度のものや、シャント肢が腫れるような大きなものも含まれています。通常は経過を観察している間に吸収され自然に軽快します。軽度であれば、治療中に圧迫止血を行うことで問題ありませんが、長時間圧迫が必要な場合や稀に皮膚を切開して外科的手術による止血が必要な場合(0.1%程度と報告)は入院が必要になります。

通過拡張困難にて手術中止となった場合は、後日、外科的再建術を検討しなければいけないことが多いです。

痛いですか?

局所麻酔を穿刺部と狭窄部に使用します。ただ、血管が拡張される痛みについては局所麻酔が効きにくいことが多く、また個人差もあるため、少なからず痛みはありますが、拡張後にはほとんどの場合、痛みがございません。

治療時間はどのぐらいかかりますか。

血管内治療室(透視室)に入室して退出するまでは、30分から1時間ぐらいが一般的です。

ただし、治療内容にもよりますので、簡単な治療内容であればもう少し早く終わることもあります。 また血栓性閉塞などの血管になりますと、1時間以上かかることも多いですし、治療に難渋することもございます。

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